14歳の私とエビデンス

社会学

バッティングセンターとエビデンス

中学3年生の時の話です。多分、卒業式も近い三学期の話です。

クラスの数人でバッティングセンターの話になりました。
私はソフトボールを少ししていたので野球好きでした。ポジションはセンターでした。

昼休みに中学校から一番近いバッティングセンターの話になりました。
近いと言っても1キロぐらいはあります。県境の学校でしたのでそのバッティングセンターは他県でした。(地名は架空の名前に変えました)

Aちゃん「瑞穂川(架空の名前にしています)を渡ったバッティングセンターはボロくて、電車に乗っても新しいところがいい」
私「あのバッティングセンターは瑞穂川の手前でしょう?川を渡らなくても行けるじゃん」
Aちゃん「瑞穂川の奥だよ。橋を渡らないと行けないじゃん」
「え」、と思いました。そのバッティングセンターは川から20メートルぐらい手前です。橋を渡る必要はないはずです。
違うバッティングセンターの話をしているのか、思い少し質問しました。

私「瑞穂川だよね」
A君「そう」
私「500メートルぐらい下流に調整池と出雲公園があるよね?」
A君「あるよ。テニスコートもあるよね?」

そのバッティングセンターから少し下流には台風などの時、洪水調節の為の貯水池があり、その上に出雲公園という殺風景な大きな公園がありました。
テニスコートが2面ぐらいあるのですが、ネットもないし、ネットを張るポールも錆びついている古い公園でした。
彼女の言うバッティングセンターと私が言っているバッティングセンターは間違いなく同じバッティングセンターのようでした。

私の主張は正しいはず

別の誰かが私達の話を聞いて
B君「あのバッティングセンターはキタネーよな。特にトイレが…」
確かに古いバッティングセンターで汚いです。

Aちゃん「瑞穂川沿いのバッティングセンターは川の向こうだよねー」
B君「そうだよ。なんで?」

Aちゃん「rihoちゃんが川の手前って言うんだよ」
B君「川の向こうだよ。橋を渡る必要がある」

私「川の手前でしょう? 瑞穂川の橋を渡る必要はないはず。中学校から行ったら橋を渡らずに行けでしょう?」

私には夕鶴町のバッティングセンターが川の手前であると絶対の自信がありました。
なぜなら、私は夕鶴町の幼稚園に通っていて、他県の町でしたが,友人が何人かいました。
そして、川沿いを子供の時に良く自転車で通っていました。小学生の時に夕鶴町の書道教室に通っていましたから。
私はバッティングセンターの上流1キロぐらいのところに住んでていて、Aちゃんたちは下流3キロぐらいのところに住んでいました。

「私が絶対に正しい!」言い争いまでいってなかったと思いますが、クラスメイトの注目が自分に集まっているのを感じてました。
ちょっと遠くにいた野球部のC君にも聞いてみました。

私「ねー C君、瑞穂川の傍のバッティングセンター知っている?」
C君「知っているよ。夕鶴町のだろう。一番奥のゲージがスライダーになるバッティングセンターだろう」
あのバッティングセンターの一番奥のゲージは機械が古いのか全てのボールが変化球のスライダーになる事は結構有名だったようです。

私「そう。質問なんだけど、夕鶴町のバッティングセンターに行くには瑞穂川を渡る必要はある?」
C君「あるよ。川の向こうだから」

私「えー、本当? 瑞穂川の手前じゃないの?」

私はキャラ的に嘘つきとか言われるタイプではなかったのですが、これ以上自分の意見を通すとなんか変な事になりそうな感じを察しました。
たまたま、隣のクラスからきた、1年生の時のクラスメートもこの話を聞きつきて話に加わってきました。

D君「riho、俺も瑞穂川の奥で橋を渡る必要があると思う。何回も行っている。もう、(川の手前だという主張)止めたほうがいい」




私はこの言葉で、自分の主張する事は止めました。でも、絶対に瑞穂川の手前にあると思っていました。

このD君は勉強が苦手な方でしたが、性格が良い人でした。たまにタバコを吸っていたりして、怒られているような人でしたが、人を傷つける事は絶対にしませんでした。

私「私は瑞穂川の手前にバッティングセンターがあると思うけど、それは間違い?」
D君「間違いだよ。」

大人になった私、答えを知る

高校を卒業して21、22歳の時に車でこのバッティングセンターの近くを通りました。
駐車場が無駄に広く、寂れていたので初心者マークの私には車を停めやすかったので何となく車を停めました。

その時、この話をもう一度思い出しました。そう言えば、私はさっき橋を渡ったな。「あ!」と思いました。

実はバッティングセンターの手前で川が2つに別れていたのです。話に出てきた貯水池がある出雲公園で2つの川が合流していたのです。
バッティングセンターは確かに中学校から行くと瑞穂川の手前ですが、支流の北星川から見れば奥です。そして、北星川に掛かる橋を渡る必要があります。

謎が溶けました。結局、私の主張が正しかったのですが、彼らの「橋を渡る必要がある」と言う主張も正しかったのです。

でも、瑞穂川を渡ると言う部分は明らかに間違っていました。あのバッティングセンターのある夕鶴町は他県です。学区外なので私以外のみんなは滅多に行く機会はありませんでした。

最近、エビデンス、論破などと言う言葉が流行っていますが、正しいと思い込んでしまったデータほど問題なものはありません。
正しい主張でも、怒ってしまったら台無しです。D君はそのあたりを理解していたかどうか分かりませんが、彼が登場人物の中で一番”素敵な人”な事は間違いありません。

そのバッティングセンターは数年後マンションになっていました。もう、あのスライダーを打つことは出来ませんが、D君が素敵だった事はいい思い出として続くと思います。



 

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